「本人か、家族か」でなく、第三の道

<安藤亘の1分間カウンセリング 8年9月>
Q.高齢者施設で相談援助の仕事をしています。最近、本人と家族の意向が異なるケースに悩んでいます。例えば、本人は「できるだけ自宅で暮らしたい」と希望されている一方、ご家族は「一人暮らしは心配なので、施設に入ってほしい」と考えています。本人の意思を尊重することと、ご家族の意向を受けとめること。その間で、どのように支援すればよいのでしょうか。
(M治:38歳)
A. M治さん、多くの支援者が直面するお悩み、ジレンマですね。高齢者福祉の現場では、本人と家族の希望が一致しないことは珍しくありません。
その際、「本人の意思を尊重すべきか」「家族の意向を優先すべきか」という二者択一で考えがちです。けれども、どちらか一方を選ぶだけでは、もう一方の大切な思いが置き去りになってしまいます。
そこで、考え方の手がかりとして「タオ(道)」と「中道」に目を向けてみましょう。異なる思想ですが、どちらにも、物事を二者択一だけで捉えず、状況に応じたよりよい道を探るヒントがあります。
タオとは、物事を力ずくで動かそうとせず、人や状況の自然な流れをよく見ながら、無理のない道を探す考え方です。これは何もせず流れに任せることではありません。必要な支援をしながら、その人に合った歩み方を一緒に見つけていく姿勢です。
また、中道とは、対立する二つの意見の真ん中を取ることでも、双方に半分ずつ我慢してもらうことでもありません。「本人か、家族か」という二者択一を超え、本人の意思を土台にしながら、家族の不安にも丁寧に向き合い、双方が納得できる「第三の道」を探すことです。
家族の「施設に入ってほしい」という言葉の奥には「一人で倒れたらどうしよう」「認知症が進んだらどうしよう」「何かあったとき、自分が責任を負えるだろうか」といった不安が隠れていることがあります。
一方、本人の「自宅で暮らしたい」という希望の奥には、「住み慣れた場所で安心していたい」「自分のことは自分で決めたい」「これまでの生活を大切にしたい」という思いがあるかもしれません。大切なのは、表面の言葉だけでなく、その奥にある願いや不安を丁寧に聴くことです。
そこで「本人には自己決定権があります」と正論で説得しても、家族の不安そのものは解消されません。たとえ支援者の説明が論理的に正しくても、家族に「専門職に押し切られた」という思いが残れば、その後の関係に禍根を残すことにもなりかねません。
大切なのは、どちらかを説得して決着をつけることではなく、本人の尊厳と家族の安心をともに大切にできる道を探すことです。
たとえば「自宅か施設か」という二者択一ではなく、次のような選択肢も考えられます。
・見守りサービスを利用しながら、自宅生活を続けてみる
・ショートステイを利用し、本人も家族も施設生活を体験
する
・一定期間試して、改めて話し合う
こうした「第三の道」は、本人の尊厳と家族の安心の両方を大切にするための現実的な選択肢です。もちろん、その際は、緊急時の連絡方法や見直しの時期もあらかじめ決め、本人の心身の状態や生活状況を確認しながら進める必要があります。
本人か、家族か。答えは、どちらか一方の主張だけにあるとは限りません。それぞれの思いを丁寧に聴き、現実的な「第三の道」を探してみましょう。
支援者が正解を決めて説得するのではなく、本人と家族が大切にしていることや不安を丁寧に聴く。そして、「どちらが正しいか」ではなく、「みんなが少し安心できる道はないだろうか」と考える。その道を一緒に探すことも、相談援助の大切な役割です。
M治さんが、ご利用者、ご家族の人生の歩みに、丁寧に寄り添っていかれることを、心から応援しています。





