「答え」ではなく…

<安藤亘の1分間カウンセリング 8年8月>
Q.障害者支援施設で生活支援員として13年目になります。利用者さんから「どうしたらいいですか?」「決めてください」と聞かれることがよくあります。日々の業務に追われていることもあり、つい私が答えを出してしまうこともあります。「それで本当に利用者さんのためになっているのだろうか」と、いつも振り返り、悩み、後悔する日々です。支援者はどこまで手を貸し、どこから本人に考えてもらえばよいのでしょうか。
(L雄:38歳)
A. L雄さん、13年間、利用者さんの声に耳を傾け続けてこられたのですね。「答えを出すべきか、本人に委ねるべきか」と悩む場面が、これまで何度もあったことでしょう。そんな時、都度立ち止まって悩み、考えて来られたこと自体が真摯に支援と向き合ってきた証だと思います。
そしてその「問い」は、福祉の根幹をなすものですね。つまり「支援」と「虐待」は紙一重です。利用者さんができることまで支援者が代わってやってしまえば、利用者さんが本来持っている力を奪うことに。
利用者さんが「どうしたらいいですか」「決めてください」と尋ねる背景には、「失敗したくない」「自信がない」「誰か正解を教えてほしい」「間違えたら叱られる」という思いが、背景に隠れているのではないでしょうか。
17世紀フランスの哲学者・数学者ブレーズ・パスカルは、著書『パンセ』の中で「人間は考える葦である」という有名な言葉を残しています。葦は、水辺に生える細くて弱い植物。強い風が吹けば簡単にしなってしまいます。パスカルは、人間もまた病気になり、老い、いつか死を迎える自然の前ではとても弱い存在だと言いました。しかし、人間には他にはない一つの大きな力があります。それが「考える力」です。体は弱くても、自分の存在や人生の意味を問い、何が善いかを判断し、これからどう生きるかを自分で選び取ることができる。パスカルは、そこにこそ人間の尊厳があると考えました。
これは福祉の現場にも、そのまま通じる視点です。利用者さんもまた、弱さや迷いを抱えながら生きています。支援者の役割は、「答えを与える人」ではなく、「その人が安心して考えられる時間と環境をつくる人」なのかもしれません。
例えば、こんな問いかけを一つ加えてみるだけでも、利用者さん自身が考え始めるきっかけになります。
・「〇〇さんは、どうしたいと思う?」
・「これまで、うまくいったやり方はありました?」
・「もし迷っているなら、何が気がかりですか?」
解決を急がない。そして一緒に考える時間を持つ。それが、共に歩む過程であり、その人らしい生活につながっていきます。
そしてL雄さん、支援者である私たち自身もまた、迷い、立ち止まることの多い、弱い存在です。だからこそ焦らず、「今はまだ答えが出なくてもいい」と自分にも言ってあげてください。
利用者さんの「答え」ではなく「考える力」を信じて待つこと。これは、L雄さん自身の「考える力」を、目の前の人と分かち合っていくことでもあります。
福祉の仕事とは、その人の人生を代わりに生きることではありません。弱さを認め、それを抱えながらも自ら考え、選び、歩もうとする力を信じ、その歩みにそっと寄り添う伴走者。
L雄さんが、利用者さんの「考える力」を信じ、その歩みに丁寧に寄り添っていかれることを、心から応援しています。





