「自立」の本当の意味は
<安藤亘の1分間カウンセリング 29年4月>
Q.短大を卒業し、一般企業で営業の仕事をしていましたが「自分らしく生きたい」という思いが募り、3年勤めた会社を辞めて福祉(介護)の現場に飛び込んで、1年が経ちました。
仕事はまだまだ奥が深く、先輩に聞きながらでないと仕事が進みません。早く自立したいと焦るばかり。自分らしさを生かすどころか半人前で自信がもてず、どこにも自分の居場所がありません。
(D子:24歳)
A.自分の「居場所」ですか。アイデンティティという言い方をすることもありますが“自分がありのままの自分でいられる空間”ということですね。
一般企業の仕事は数値化された目標設定により、結果重視の傾向にあります。結果さえ良ければその過程はどうでもよいということでしょう。
しかし福祉の仕事は、結果よりもむしろその「過程」に意味のある(結果は後からついてくる)仕事です。そのため、途中で手を抜けず大変な面も多いと思いますが、逆に奥が深く魅力的な数少ない仕事のひとつなのではないでしょうか。
私たちの生活は、日々選択と決定の連続です。何時に寝て何時に起きるか。コンビニでどんな飲み物を選んで買うのか。日常は、そんな些細なことの連続です。そして日々の自己選択・自己決定の連続が、オンリーワンの自分の人生を形成していきます。
私たちは何を望み、選び、決めていくのか。そこに生きいきとした自分、すなわち“自分らしさ”が存在します。しかし個人が本来持っていた生きいきとした生きる力は「孤立」した状況においてはそれを活かすことは困難です。例えば冷蔵庫の奥で忘れられ、冷えてカチカチのバターのかけらのようになってしまった「心」は、自らの力でそれを溶かすことはできません。他者との対話によって良い循環が生み出され、はじめて徐々にゆっくりとけはじめ、自分らしさを回復します。
人が心のバランスを崩してしまう一番の原因は「孤立」、心身の健康を維持・向上していくために最も大切なのが「コミュニケーション」です。
国語辞典には「自立」の反対は「依存」と書かれてありますが、自立の反対は依存ではなく「孤立」なのではないでしょうか。
人はひとりでは生きていけませんし何ものにも依存しないで生きていくことも決してありえません。人は心を許せる友だちや恋人との関係の中で互いに信頼し、適度に依存し合える関係こそ、むしろ本当に自立している状態といえるのです。
D子さんは、自分自身と(自分の人生と)向き合って、自己を確立しようとされていますね。
D子さんは今が人生の転機なのかも。転機にはひとりで抱え込まず、信頼できる職場の先輩や同僚に、是非相談してみてください。
福祉現場の皆さんは、ひとり一人それなりに越えてきた方たちばかりです。先輩や同僚に仕事の意味や辛さ、面白さ、辞めたいと思ったことはないか等々、ゆっくり時間をとって聴いてみましょう。困ったら「何とかなるさ」「誰かに相談してみよう」の精神で。
D子さんがこれまで経験した苦労や辛さは、無駄なことはひとつもありません。それらは、人のために生かすことができるのです。
D子さんの今後のご活躍、楽しみにしております。